■910の日■

















    その夜は、前々から楽しみにしていた買ってきた本を思う存分読んでいた。

 夜が深まり短い時計の針が0と2の間を指し示すあたりで、ようやく読んでいた本のENDマークにたどりついた。
 そして、本を脇に置いて余韻を愉しみつつ瞳を閉じてベッドに仰向けに転がったのだ。

 軽い疲労感と読み終えた満足感が体中に広がり、至福の眠りへと誘う。

 そのまま吸い込まれるように眠りに落ちるのは最高に気分が良い…。

眠りに落ちる

 
 訪れる静寂。

 いや、真の静寂ではない。
 時計の針が刻む正確なリズム音と健やかな寝息以外、何一つ動きを表す気配の無い部屋…と言うべきか。
 
 そんな部屋の中にふわりと微かな風が巻き起こる。
 折りしも窓に顔を覗かせた夜の白き女王たる月がつまびらかせる光が、窓から弦のように降り注いだ時だった。
 その月光を受けた白い影は光を淡く弾き、暗い部屋の中で人の形を織りなす。



 気配を消して密やかに。

 彼の眠りを妨げぬ様に。


 そっと、


 そっと…。



 安らかな眠りの妖精の粉が降りかかった彼に近づく。
 月明かりに照らされて浮かび上がるその寝顔は、眠りに落ちる直前まで読んでいた楽しかった本の余韻なのか、口元がわずかにほころび微笑みに彩られているように見えた。

「………   


 息が顔にかかるほど、

 吐息が耳を擽るほど、近づいて。

月の光と白い影

 その月明かりに彩られた唇に吸い寄せられた、その時。


     …ん」


 気配は完璧に消していると自負していた。
 しかし眠りの中にいる彼はわずかに醸しだされる熱を察してか、軽く身じろぎして身体を燻らせる。

 その仕草は自分を   拒む様でいて。

 それは逆に自分を   誘うようでいて。


 一瞬の逡巡が時を止める。



      趣を殺がれた。


 そっと。
 さらりとしたひと総の髪を指に絡めとり、口づける。少し離れた所為か今度は気づかれずに。

 淡い髪の香りを盗む。

 そして、ふわりと微かな風を巻き起こしその白い影は闇に溶ける。





   ……あ?」
 
残されたのは…

 ふと水の中から沸き上がる泡のように、ふわりと眠りから目覚めた。

 まだハッキリとしない意識の中で、何故だろうと湧き上がる疑問。
 何かに惹かれて目覚めたような気がしたのに、視線を巡らせても何も変化のない天井が見えるだけ。
 疑問符が心を支配し尽くしそうになった一瞬。

 ふわり。

 夜の帳をなびかせる風が頬を撫でる。
 その原因に瞳を流せば、窓がわずかに開いていて…。
 ゆらゆらと揺れるカーテンの隙間から柔らかい月の光。

 暗闇を薄布のような月光がたなびいて、自分の顔に揺らめいていた。


 それと…何だろう?
 自分のモノでない何者かの香りがふわりと鼻孔をくすぐるのを感じて。

 しかし、そんな浮かんだ疑問も、再び押し寄せる眠りを振りまく妖精の粉に霞まされ、瞼が重く圧し掛かる。

 普段の自分なら疑問に思ったコトは解明せずには居られないはずなのに、その時は何故かそれを変に思わず眠りに身を任せてしまった。


誘われる眠り


 堕ちていく意識の闇に白い影がよぎる。


 遠くに街の灯りが瞬き、

 空には薄雲のドレスを纏った月。

 風にたなびく月光で彩られた外套…



 落ちていく、眠りへと。

     記憶の中の彼を心に描きながら。






END








一気に読んだ方おつかれさまでした。
910で工藤の日記念ですよ!
910の日企画を思いついてから形になるまで
すごい時間かかってしまいました(;`ω´)
なんとか形にすることができてホントに良かった♪
ありきたりなネタではありますすが、
私的にちゃんと仕上げるコトができて良かった!
お蔵入りにするにはちっとモッタイナイですしね(笑)

そんなこんなで
ご覧になった皆さんが少しでも幸せになって
頂けたとしてたら幸いです。

2010.09.10 羽柴ルミ




ちょっとオマケに、作ったパーツを組み合わせみました(・ω・)っ
真夜中の密会
新一がもっと敏感に気配を察していれば
こうなっていた?!(笑)